キースイッチのカスタマイズ

この記事は 自作キーボード Advent Calendar 2018 #1 の15日目の記事です。
adventar.org

14日目は鍛冶屋弁当屋Pさんのキーボード作りたい!(小太刀編)でした。

本日は、ここ最近広がりつつあるように感じるキースイッチのカスタマイズについて紹介します。

人はなぜキースイッチをカスタムするのか

市販品に無いスイッチを作りたい

例えば押下圧、市販品で最も軽いのはGateron Clear(リニア、作動圧35g)ですが、スプリング単体なら作動圧20gから販売されています。
つまり、スイッチをバラしてスプリングを交換すれば好みの重さでスイッチを作れる!
(なお実際にそれで作ると誤入力が多発する上級者向けになる模様)

ストック品の残念な点を解消したい/打鍵感を良くしたい

また、打鍵感は良いんだけどグラつきが… というような時は、ハウジングを変えたりフィルムを挟めば改善するかもしれません。
あとスプリングがキシキシ鳴る残念な静音軸なんかもありますが、スプリング周りや軸をlubeしてしまえばけっこう解消できたりします。

カスタムの一例

  • OリングやQMX-Clipなどの装着
  • スプリング交換
  • 改造
  • lube
  • キメラスイッチ (フランケンスイッチ)

なお、2つ目からはスイッチの分解が(ほぼ)必須です。

カスタマイズに有用な道具

あると便利ですが、なくても精密用のマイナスドライバーがあればなんとかなります。

ピンセット
細かいパーツが多いので、あると何かと便利。
lubeなどパーツを持ちながら作業をする場合は、逆作用ピンセットがあるとさらに捗ります。

スイッチオープナー
スイッチを分解する時に使用します。 scrapbox.io

OリングやQMX-Clip、Zealencioの装着

まずはスイッチの分解が不要なところから。

Oリング

産業用途ではシーリングに利用されるOリングですが、ここではキーキャップの軸受けに嵌め込んで使います。 (これだけしか持ってない。右は天キーのキースイッチかわいい同好会にて購入)

Oリングを使うことで、

  • 底打ち音を抑える
  • 底打ちの感触を柔らかくする
  • ストロークを減らす

といった効果があります。

2mmくらいのものは店のゲーミングキーボードコーナーに置いてあったりするので、とっつきやすいカスタムなのではないでしょうか。
他にはAliExpressにいろいろあるらしいですが、私はよく知りません(詳しい人頼む)。

QMX-Clip、Zealencio

スイッチに上から被せて使うのがこちら。

装着することでステムにゴム部分が触れる感じになり、ステムと上ハウジングがぶつかる音を抑えてくれます。
ついでに作動距離が短くなったり、キーキャップの種類によっては底打ち音も軽減されます。

キーキャップによっては、下のようにOリングと組み合わせることもできます。

注意点としては、薄いプラスチックなので取り外しに注意しないとすぐ割れるところでしょうか。
私のQMX-Clipは既に4~5個割れてます…。

Zealencioはこちら、QMX-Clipはこちらなどで購入できます。
どちらもたまにMassdropに出ていたりするので、送料が気になる人はそれを待っても良いかもしれません。

スプリング交換

スイッチの中に入っているスプリングを交換する、というカスタム方法があります。

スイッチの押下圧を決めているパーツですので、違う重さのスプリングに交換すればもちろんスイッチの押下圧も変わります。
また、モノによっては途中で重さが変わる特殊なスプリングや、縦の長さが短いものもあり、これらに交換することで、同じステムでも異なる打鍵感を得ることができます。

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この他に入替えによって余ったスプリングもあります

右下の72P, 78Pとあるのが途中で重さが変わるもので、progressive spring と呼ばれています。
ラインナップ的には50gから78gまであるので、普段底打ちしないくらいの重さのものに入れ替えると面白いかもしれません。

中央下のスイッチ入りの袋がHalo Trueの内蔵スプリングで、短いながらも底打ち時100gにもなるけっこう重めなものです。
progressive springと似た独特な打鍵感になっていて、Halo Trueの独自設計なステムもあってすごく好きなんですよね…。

他に素材やメッキなどいろいろあるみたいですが、そこはあまり分からないので触れません。

スプリングを買うならSPRiTがおすすめ。
普通のものからprogressive、KailhのClick BarやChoc用スプリングなどいろいろ売ってます。

改造 (mod)

海外では ○○ mod のような呼び方をされていることが多いですが、既存スイッチの残念な点を解消したり、全く違う打鍵感にしたりするために、いろいろな改造が試されてきました。
ここでは一例を参考として紹介していきます。

スイッチフィルム / スイッチステッカー

ステムのグラつきを抑えるために、上下ハウジングの間にステッカーやフィルムを挟むmodです。

ステムがグラつく原因として「ステムと上ハウジングの隙間が大きい」という点は知られていると思いますが、上ハウジングが水平方向に動いてしまうのも、実はグラつきやすさにけっこう影響してきます。
そこでハウジングの間にフィルムなどを挟むことで、ハウジングの遊びを減らし、グラつきも減る…というものになります。

クリアハウジングのスイッチではこれが必要なほどハウジングの遊びが大きいものは少ないですが、Cherry MXの黒ハウジングや、上のツイートで試しているGeekMaker Creamy等にはかなりの効果があります。

Jailhouse mod

いわゆる青軸はステムが2つの部品を組み合わせて作られていて、接点に当たる方の部品が動くことによってクリック音を出しています。
この部品を動かないようにするのがJailhouse modになります。

元々はOリングやプラスチックを挟んだり、針金を巻くなどされていたようですが、現在はTheVanKeyboardsでJSpacerという専用パーツが販売されています。

装着すると、独特なタクタイル感でストローク短め(約3.0mm)のスイッチになります。
なかなかこれも癖になる感じで、割と気に入っているスイッチの一つ。

lube

ほとんどのスイッチではステムやハウジングがそのまま擦れており、潤滑剤を塗ることで動きをさらに滑らかにすることができます。
潤滑剤(lube;lubricantの略)を塗ることをlubricatingとかlubingとかいいます。

lubeといってもいろいろあって、例えば

  • オイル
    • Krytox GPL 10x
    • Krytox VPF 15xx
  • グリス
    • Krytox GPL 2xx
    • Tribosys 320x
  • 水性
    • RO-59tmKT(販売終了)
  • 粉末
    • Microlubrol Omniflon XDL

などがあります。まぁ主に使われているのはオイルとグリスですね。

lubeを塗ることで、

  • ステムの動きを滑らかにする
  • 打鍵音やスプリングの音を抑える(オイルやグリスの場合)

といった効果があります。

動きの滑らかさは実際やってみないと分からないかと思うので、試してみるかイベントで触ってみてください。

音の変化はこんな感じ。

ちなみにタクタイル系のステムと接点の接触部を潤滑すると、タクタイル感が少なくなります。
このためリニア以外は通常そこにはlubeを塗りませんが、一部の特にタクタイル感の強いもの(BOX RoyalやArctosなど)には有効です。

詳しくはScrapboxのLubricationのページをご参照ください。

キメラスイッチ (フランケンスイッチ)

複数のスイッチからパーツを組み合わせて作るスイッチのことです。
海外だとフランケンスイッチという呼び方の方が一般的っぽい?

効果は本当に様々で、それぞれのパーツのいいとこ取りな感じになるものもあれば、思いもよらない打鍵感になるものもあります。

代表的なものには名前もついていて、例えば

  • Holy Panda (Invyr PandaのステムをHaloに入替え)
  • MX Zilent (ZilentのステムをCherry MX Silentに入替え)
  • Cherristotle (AristotleのハウジングをCherry MXに入替え)

など。

特にHoly Pandaは独特のなだらかで大きなタクタイル感が話題になり、(素材となるInvyr Pandaからして貴重というのもあって)一時は1つあたり$5で取引されるほど人気なスイッチでした。
(今はMassdropでGBやっていたり、Invyr PandaのクローンもGBやっていたりで暴落中)

ちなみに上下ハウジングには意外と非互換なものが多いです。
Walkerstop氏がまとめているのでご参考ください。 docs.google.com

各パーツについて

下ハウジング

…といいつつプラスチック部分はそこまで重要視されることは少ないです。
(透明素材だと音が大きくなりがち、とかはある)

重要なのは接点の金属部分で、反発力の強さとかステムと接触する部分の形がタクタイル/クリッキー系ステムのタクタイル感に影響してきます。

  • Invyr Panda … 反発力強め、ステムとの接触部は丸め
  • Cherry MX Blue … 反発力強め、ステムとの接触部は鋭め
  • Outemu V2 … 反発力強め

みたいな。
あとはGreetechの緑軸/青軸も接点の反発力が強めらしいです。

ちなみに、接点だけ取り出して他の下ハウジングに移植することもできます。

上ハウジング

主にステムが通る穴の大きさ(ステムとの隙間の小ささ)で選びます。
あとこれは他の人らが意識してるかは分かりませんが、モノによっては穴が少し上(ロゴ側)に寄っていることも。

  • Invyr Panda … ちょっと狭め
  • Outemu V2 (no LED) … かなり狭め、穴がちょっと上寄り

など。

ステム

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タクタイル系。左からCherry MX Brown, Zealio 62g, MOD-M, Halo True, Arctos

また表面の滑らかさも関係があって、上ハウジングと擦れる部分もですが中央の棒が意外に強く下ハウジングと擦れるので、その辺りの滑らかさがそのまま打鍵時の滑らかさに繋がってきます。

上の画像はMX黒軸ですが、製造時期によって金型が変わっていて、それが滑らかさの違いになっています。
ちなみに一番評価が高いのはvintage、次点でretooledみたいです。

あとがき

今年の自作キーボード界隈の盛り上がりは本当にすごくて、去年の冬コミ後からの勢いはまさに夜明けというべきものでした。
ただ自分はどうだったのかというと殆ど傍観者的な立ち位置だったように思っていて、何かしらコミットしていかないとなぁ…という気持ちです。
今もちょこちょこやってはいますが、自キScrapboxのさらなる充実とかやっていきたい。
ところでScrapboxめっちゃ書きやすいよね。最初は独自記法で戸惑ってたけど体験が良いので慣れてしまった。

記事に関しては正直Scrapboxとかにまとめるような内容だなぁ…という感じですが、キースイッチを選ぶだけでなく、より良いキースイッチをカスタマイズして作っていくというところに興味を持っていただけると幸いです。

この記事はCorne Cherry (JTK Aqua, lubed Arctos) で書きました。